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東京地方裁判所 昭和49年(モ)16757号 判決

債権者 田中幸夫こと 金仁玉

右訴訟代理人弁護士 大隅乙郎

債務者 後藤庸輔

右訴訟代理人弁護士 石原豊昭

主文

一  債権者と債務者との間の当庁昭和四九年(ヨ)第六九一九号有体動産仮差押申請事件について、当裁判所が同年一〇月二四日にした仮差押決定は、これを取り消す。

二  本件仮差押申請は、これを却下する。

三  訴訟費用は、債権者の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  債権者

主文第一項掲記の仮差押決定は、これを認可する。

二  債務者

主文第一項ないし第三項と同旨。

≪以下事実省略≫

理由

一  被保全権利について

本件仮差押申請の請求債権額である二二五万円の限度では、債権者がその主張どおりの利息および損害金の額に対応する保証債務履行請求債権を債務者に対して有していることは、当事者間に争いがない。

二  保全の必要性について

≪証拠省略≫によれば、債権者の申請外第一興業株式会社に対する本件貸付金債権については、別紙物件目録記載の土地、建物に対して、債権額を二、〇〇〇万円、利息を年一割五分、損害金を年三割として順位二番の抵当権が設定されており、しかも右各物件については、すでに他の抵当権者の申立により競売手続が開始されていること、右各物件についての当初の最低競売価格としてはいずれも八、〇〇〇万円を超える額が定められており、建物については一度は七、五一五万円の価格で競落が許可されたことがあったこと、右各物件について債権者に優先する順位一番の根抵当権の元本極度額は三、二〇〇万円、損害金は日歩七銭として登記がなされていることが認められる。

ところで、債権者が本件仮差押申請でその被保全権利として主張する債務者に対する二二五万円の保証債務履行請求債権は、債権者が主債務者たる申請外第一興業株式会社に対して有する満期前二ヶ月分の利息債権と満期後三ヶ月分の損害金債権に対応するものであるから、この主債権自体は、別紙物件目録記載の土地、建物について設定された抵当権によって担保されており、しかも右に認定した各事実によれば、債権者は、現在進行中の右各物件の競売手続のなかで、右の主債権の全額についてほぼ確実に優先弁済を受け得る地位を有しているものと推認することができる。

そうすると、債権者としては、保証人たる債務者に対してその保証債務の履行を請求するまでもなく、その主債権自体について確実に弁済を受けうる状態にあるのであるから、右の主債権に対応する保証債務履行請求権についての執行を保全しておく必要性を有していないものというべきである。

三  結論

以上のように、本件仮差押の申請は、保全の必要性を欠くものであり、保証をもってこれに代えることも相当でないから、これを容れてした本件仮差押決定を取り消したうえ、本件仮差押申請を却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 涌井紀夫)

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